ハタハタ寄せる 恵みの海守る
「秋田名物八森(はちもり)ハタハタ」と民謡「秋田音頭」で歌い継がれている通り、秋田特産のハタハタ漁で栄えてきた漁業の里、八森(八峰(はっぽう)町)。しかし1970 年代半ばから不漁続きとなる。八森を中心に秋田の漁師たちは伝統漁存亡の危機感で一致団結し、前例のない資源保護のための3年間にわたる一斉禁漁を決め、守った。また地元では並行して里山にブナを植樹する地道な活動も。その結果、八森の海にハタハタが戻ってきてくれた。「にほんの里100 選」に選ばれたのは、命のゆりかご・里海と里山を守る人々の営みが高く評価されたからだ。
日本海に面し、後ろには93 年12 月、屋久島(鹿児島)とともに日本で初めて世界自然遺産に登録された白神山地が控える。冬は吹き付ける季節風に雪が飛ばされ、視界不良となる厳しい土地。「鱩」「鰰」とも書くハタハタは、そんな冬場の12 月が漁の最盛期。産卵のため沿岸の藻場に押し寄せる「季節ハタハタ」を、定置網や刺し網で捕獲。どっと水揚げされ、浜では仕分け作業。八森が1年で一番活気にあふれる時だ。
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ハタハタは、秋田に独特の食文化も育てた。魚醬「しょっつる(塩汁)」は、ハタハタを原料として塩に漬け込み、自然発酵させて造られる。「しょっつる鍋」や麴(こうじ)で漬け込む「ハタハタずし」も昔からハタハタとともに暮らす人々の知恵の産物だ。
禁漁を実施したのは92 ~ 94 年。八峰町の資料によると、八森でのハタハタの漁獲量は、禁漁前の91 年にわずか24t まで落ち込んでいたのが、漁再開後の95 年から徐々に回復し、2001 年には四半世紀ぶりに400t 台に戻した。その後も、04 年に561tを記録するなど、ほぼ順調に推移している。
ブナの植樹を里山で十数年にわたり地道に続けているのは、地元のNPO法人「白神ネイチャー協会」と「海と川と空の塾」を主体としたボランティア。「森は海の恋人」の言葉が、ここでも実を結ぶ日が来るに違いない。
(グリーンパワー2014年7月号から転載)