久米島(くめじま)沖縄県

ラムサール登録の湿地

サトウキビや野菜作り、モズク採取にクルマエビ養殖が盛ん。島中央部の湿地がラムサール条約に登録。伝統の紬(つむぎ)や泡盛も元気。

  • 交通:久米島空港から車で20分/兼城港から車で5分
  • 特産:泡盛、クルマエビ、海洋深層水
  • 直売:赤嶺パイン園 098-985-4651/久米島の久米仙(泡盛工場) 098-985-2276
  • 宿問い合わせ:久米島観光協会 098-985-7115
  • 関連ウェブサイト:久米島町観光協会

※ 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。

※ 車ナビは、里を訪れる際の目標ポイントを数値化したマップコードで、()内が施設名や地点です。地図では★で示しました。カーナビのマップコード検索で利用できます。

2012年10月18日

ルポ にほんの里100選① 藤原勇彦 グリーンパワー2011年1月号から

  

自然の恵みを地元の誇りに / 島内外が共鳴保護も地域振興も_

  

赤土流出防ぎ生態系回復へ

 

「グリーンベルト設置作業」に参加した150人

 斜面の彼方にサンゴ礁の海が光る、久米島儀間(ぎま)地区のサトウキビ畑。2010年11月15日、ベチバーというイネ科植物が、0・2㌶の畑の周囲に植えられた。久米島町と「久米島応援プロジェクト」(代表・WWF=世界自然保護基金=ジャパン)が呼びかけた「グリーンベルト設置作業」。茎が細く密に生長するベチバーは、畑の土壌を保全し、赤土流出を防止ぐ。11月とはいえ汗ばむ陽気の中、平良(たいら)朝幸・久米島町長を始め町役場関係者、小学校や高校の生徒たち、地元の環境保護団体、畑の持ち主や近所の農業従事者、WWFジャパン担当者ら約150人が、人海戦術で1千本以上の植栽を終えた。

草刈りや水路整備をする「てもみん」研修生たち

 翌16日、島の西側にある、ため池「カンジンダム」の水辺では、約30人の男女が、棚田復活のための雑草刈りや水路づくりにいそしんでいた。㈱グローバルスポーツ医学研究所「てもみん」の研修生たちだ。09年秋から月ごとに、全国から久米島を訪れている。水辺の動植物の生態系を回復し、池への赤土流入防止と水質改善を目指すプロジェクトで、作業を指導している環境保護団体「久米島ホタルの会」の佐藤文保・直美夫妻らは、「多人数の継続的な支援のお陰で、水路の確保や植樹、外来植物の駆除が進み、ホタルの発生も大幅に増えました」という。

 

白保の経験を生かし

 

 島固有種のクメジマボタルや希少な水棲のキクザトサワヘビが生息する、ラムサール条約登録湿地。周辺海域のサンゴや様々な生物。久米島は、中国大陸から古い時代に切り離された地理的条件と環境の特色から、生物多様性が高く、WWFジャパンの優先保全地域に選定されている。その一方で、ここ数十年、コメからサトウキビへの政策的転作が進み、農地からの赤土流出が海の環境に悪影響を与えていると見られる。1992年の沖縄県による調査では、久米島周辺海域は赤土が堆積し、県内でも最も汚濁が著しいとされていた。

 2009年10月に始まった「久米島応援プロジェクト」は、石垣島白保(しらほ)や南西諸島で地域主体の自然保護活動に長年携わってきたWWFジャパンが企画。三井物産環境基金の助成を受けて、海の自然史研究所、国立環境研究所、県衛生環境研究所、県環境科学センター、自然環境研究センターなどの専門機関が協働している。10年春から、儀間川流域2カ所で、流量と濁り具合の常時観測を開始した。海では、島尻湾の赤土堆積詳細調査を行い、県が調査した92年と比べてかなり海域の環境が回復しつつあること証明した。事務局を務めるWWFジャパン自然保護室主任の安村茂樹さんは、「赤土対策の中身とコスト、結果としての川、海の生き物の健全度のデータを示して、地域活性化の取り組みを地元と一緒に考えたい」と見通しを語る。

 

▪「日本一」の海洋深層水▪

 

 昨年10月、名古屋で「生物多様性条約COP10」にあわせて開かれたフェアの沖縄県ブースで、久米島町の大田治雄副町長は、「久米島にたくさんの宝物があることは、住民の我々にとっても誇り」とあいさつし、地元の保全意識を高めることを約束した。1995年の県赤土等流出防止条例を受け、久米島町は近年、足場板の土留めによる土壌保全などの対策を講じている。「久米島応援プロジェクトで確認されたサンゴ大群集もクメジマボタルも、その価値を島外の人に知らされて、驚きと誇りが芽生えた」

 大田副町長は、島の将来像について「1次産業から観光まで、自然を大事にした産業の掘り起こしに努めたい。究極の目標は自給自足のできる球美(くみ)の島」という。

 今その一環として、期待を集めているのは海洋深層水だ。久米島では、沖合2・3㌔という比較的陸に近い地点で、水深612㍍の深層水を汲み上げることができる。現在の汲み上げ量は日量1万㌧以上で、日本一という。温浴健康施設のバーデハウス、出荷量日本一のクルマエビや海藻類の養殖、野菜の低温栽培、食塩精製、化粧品製造など、さまざまな物づくりに利用され、最近では、久米島海洋深層水連絡協議会加盟企業の総生産額が、島の基幹産業だったサトウキビ生産・製糖業を上回っている。

 冷たい海洋深層水と温かい亜熱帯の海洋表層水を利用した温度差発電も09年度、総務省の調査費予算がついた。県海洋深層水研究所の兼島盛吉主任研究員によれば、発電が本格化すれば、深層水は今の10倍、日量10万㌧の汲み上げが見込まれ、クリーンな自給エネルギー源として、「きれいで栄養豊富な低温水」として、多様な分野で島の産業を支えうるという。

 

海と環境を久米島ブランドに

 

 「子どもの頃は、島の周りは生きたサンゴがいっぱい、海に落ちたらウニが刺さったものです」と振り返るのは、久米島漁業協同組合参事の宮里真次さん。ここ10年ほど赤土流出は減少したものの、沿岸の魚は減った。スーパーなどでは下処理の簡単な魚が好まれ、沿岸魚の値も下がっている。「今は、運賃をかけて島外に出しても採算の合うマグロの一本釣りが主流」という。輸送コストは、漁業だけでなく離島産業全般にとって重い課題だ。

 「農業は高齢化。島の支え手として製造業が頑張らなくては」というのは、泡盛製造・米島(よねじま)酒造工場長の田場俊之さんだ。30歳。若手中心に立ち上げた一般社団法人「久米島の海を守る会」の理事長。主だった島内の製造業者を会員に、売り上げの一部を海の清掃など環境保全に役立てながら、自然と共生する「久米島ブランド」の育成を目指している。

 サトウキビ畑のグリーベルトは、別の畑の持ち主からも「ぜひに」と申し出があり、翌月2度目の植栽が行われることになった。島内外の人の結びつきから、自然環境を保ち付加価値の高い産業を生み出す知恵が生まれた時、久米島に新たな可能性が開けるだろう。

 森林文化協会と朝日新聞社が「にほんの里100選」を公表してから、ほぼ2年。自然や景観、そして地域の文化とコミュニティーを将来へ引き継ぎ発展させようとする新しい動きを、現地から報告します。

                            (グリーンパワー2011年1月号から転載)

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