冷涼な気候 里道と林業が魅力
町の北東端に西日本最高峰の石鎚山(1982 m)を抱く、名前の通り高原の町、久万高原町(くまこうげんちょう)。松山市から町の中心部まで車で40 分ほどながら、冷涼な気候で「四国の軽井沢」とも呼ばれる。ミカンで有名な愛媛では珍しく、リンゴが特産なのもうなずける。
同町は2004 年8月に旧久万町、面河村、美川村、柳谷村の4町村が合併して誕生した。東南側は高知県と接している。町西部の旧久万町内にある上畑野川(かみはたのかわ)地区は、明るく開けた谷間に茅葺(かやぶ)き屋根の民家も残る山里だ。手入れの行き届いた段畑や水田を巡り、フットパス(里道)歩きを楽しめる。
この土地の自然を愛する町内外の人たちでつくる「久万高原遊山会」会長、土居通秀さん(72)=同町下畑野川=は「田舎の本当の良さを、地元の人と対話、交流をしながら、ゆっくりと味わって」と話す。会の活動として登山道や散策路の手入れ、道標整備を進めている。上畑野川では花の苗を住民に配った。地元の婦人グループの熱心な活動と相まって「にほんの里」の魅力をさらに高めている。
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町内で営まれている林業は「久万林業」と呼ばれる。1960 年頃から減少の一途だった林業就業者数が、2005 年に底を打ち、増えてきた。森林面積は町の9割。その82%が民有林で、民有林の人工林比率は86%。人工林のうち7割がスギ、3割がヒノキ。全国有数の林業地だ。その礎を築いたのは、明治初頭に地元の四国霊場44 番札所・大宝寺執事として和歌山から移り住んだ井部栄範(1842 ~ 1914)。後に還俗(げんぞく)して造林思想を地元で広め、育苗植樹に努めた。
下畑野川の林業家、岡信一さん(69)は、広葉樹を含めた複層林経営をしている。山には先祖から受け継がれてきた、丁寧に枝打ちされた樹齢約130 年のスギの大木も。見事な樹木と良材生産に情熱を注ぐ林業家に出会えるのも、この山里の魅力だ。
(グリーンパワー2014年3月号から転載)