佐久島(さくしま)愛知県

黒壁続く半農半漁の島

三河湾に浮かぶ半農半漁の島。コールタールを壁面に塗った木造の家並みが続く。自生のスイセンやハマダイコンなど植生も多様。

  • 交通:東名道岡崎IC又は音羽蒲郡ICから車で一色渡船場まで50分、名鉄蒲郡線吉良吉田駅から車で一色渡船場まで10分、一色渡船場から佐久島(西港)まで船で30分
  • 特産:アサリ
  • 食事:一色さかな広場(魚介類・本土)0563-72-3700
  • 直売:一色さかな広場(魚介類・本土)0563-72-3700/グリーンセンター一色店 0563-72-0010(本土)
  • 宿問い合わせ:一色町観光協会 0563-72-9606
  • 関連ウェブサイト:西尾市観光協会

※ 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。

※ 車ナビは、里を訪れる際の目標ポイントを数値化したマップコードで、()内が施設名や地点です。地図では★で示しました。カーナビのマップコード検索で利用できます。

2013年07月08日

ルポ にほんの里100選31 藤原勇彦 グリーンパワー2013年7月号から

土と溶け合うモダンアート / 次のステップは定住促進

 

 三河湾のほぼ中央に位置する佐久島は、周囲約11・5㌔㍍、面積181㌶、東京ディズニーランド約3個分の広さだ。愛知県西尾市一色町の「佐久島行船のりば」から、この3月に就航した高速船「第三さちかぜ」に乗り込んで約20分。なだらかに起伏する陸地は、最も高い所で標高38㍍ほど。道が細いため、交通機関は徒歩や自転車が主。動力があるものは、せいぜい軽自動車か原付二輪しか使えない。コンビニ、信号、センターラインが全くなく、耳に届くのは潮騒と鳥の声という自然環境に恵まれた別天地だ。

石垣海岸の「おひるねハウス」

 

「おひるねハウス」で読書

 

 島の海岸や森のあちこちに、不思議な物体が設置されている。海に向かって立つ、黒くて真四角な木の構造物は、「おひるねハウス」。9つに仕切られた各ブロックで、潮風に吹かれながら波音を聴き、海辺の景色を見晴らすことができる。数十㍍の距離を置いて向かい合う二つの大きな白い箱を、長いベンチでつないだ「イーストハウス」、森の中から海を見晴らす展望台「佐久島の秘密基地/アポロ」、大浦海水浴場の磯にカモメの風見鶏がずらりと並んだ「カモメの駐車場」など、いずれもれっきとしたモダンアートで、触ったり乗ったりできる「体感型」が多い。常設展示されているものだけで20点、佐久島の自然と風物に意外なほど溶け込んでいる。案内図や特製のスタンプが用意されているので、20カ所を巡るスタンプラリーも可能。中には、「おひるねハウス」で寝転びながら、何時間も読書してゆく若者もいるという。

 

 江戸時代には千石船の舟運などで栄えた佐久島は、半農半漁の島で、刺し網漁やナマコ漁の他、アサリや「大アサリ」として知られるウチムラサキなどの貝類がよく獲(と)れる。以前は温州ミカンを出荷するほど生産していたが、今はほとんど廃れ、農地は自家用の野菜作りが主という。漁業と並んで民宿などの観光業が、現在の島の主な産業だ。島の西側の集落では、潮風から家を守るため、壁を船底の防腐剤に使うコールタールで塗ってある。漁村らしい細い路地を挟んで黒塗りの家並みが続くこの光景は、ギリシャのミコノス島の白い家並み、イタリア・シエナの赤と対比させ、「三河湾の黒真珠」とのキャッチフレーズが付いている。

大浦海水浴場の「カモメの駐車場」。本物と見まがうようだ

 

地域資源を掘り起こす

 

 この島がアートによる地域おこしを始めたのは、1996年。バブル崩壊で、リゾート法(総合保養地域整備法)に基づくゴルフ場開発構想などが、頓挫したことが発端だった。年々加速度的に進んでいた過疎化・高齢化を何とかしなければ、と、国土庁(現・国土交通省)の女性だけの委員で構成する「よい風が吹く島が好き女性委員会」の視察をきっかけに、島民全員による任意団体「島を美しくつくる会」が発足、モダンアートの導入が始まった。

島の西側に見られる黒い壁の家が続く光景

 

 当初は都会に住む作家の完成作品を展示したが、土地の人の意識や風土と擦れ違うことが多く、理解されにくかった。試行錯誤の過程で、住民、行政、アート関係者が話し合い、2001年、新たに「三河・佐久島アートプラン21」プロジェクトを策定した。「つくる会」を主体にアートイベント、展覧会、ワークショップなどを開催して交流の場とし、作家は現地に滞在するなどして島をモチーフに加えた作品を作る、という方針転換。「つくる会」の中の「ひと里」「美食」「漁師」「いにしえ」の四つの分科会は、黒壁の家並みの保存運動や島の食材を使った名物料理の試作、貝紫染めの開発、島に多い古墳の整備など、それぞれが、地域の資源を掘り起こし、アートにつながる素材を磨き上げる役割を担う。

細い路地と黒塗りの家並み

 

 以来十数年、潮風や海の香り、光と影を取り込んだ作品が島に溶け込む景観が定着した。「つくる会」が協力し、西尾市の佐久島振興課が作っている「佐久島公式ホームページ」によれば、毎年早春に行われる黒壁塗りと梅園の手入れには、島内外から200人以上、海を豊かにするためのアマモの藻場づくりには子どもたちを含め百数十人のボランティアが参加。たこコロッケにナマコ茶漬けなど「島の幸」の試食会、アカニシ貝を使った染色体験、太鼓フェスティバル、弘法祭りなどの集客イベントが、年間を通して設定されている。また、中学生の自然・漁業体験も受け入れている。

 

観光客は増えても残る課題

 

 「つくる会」の試みは、03年の全国地域づくり推進協議会会長賞などを受賞した。名古屋圏に近い場所に、自然と溶け込んだアート、文化、祭りなどさまざまな癒やしがあることが知られて、04年度に3万6000人だった観光客数は、09年度、10年度には1万人ずつ増え、12年度には7万5000人に達した。

 

 島の民宿は潤い、特産品を売る店舗もできたが、長年「つくる会」を引っ張ってきた副会長の三宅博巳さんは、「世間の反響と島の歯車がかみ合っていない。高齢化は、相変わらず加速度的に進み、今の暮らしが将来も成り立つのか」と不安を口にする。島の人口のピークは1947年の1634人。島外流出と高齢化で2013年4月1日には262人に激減している。「最大の課題は定住促進です」と西尾市佐久島振興課の山崎高志主査。ホームページでの空き家の紹介や、昨年から始まったクラインガルテン(宿泊滞在型農業体験施設)は、定住者を招く努力の第一歩だ。

 

(グリーンパワー2013年7月号から転載)

 

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