寒干し大根が人気 天空の里
岐阜県東北端、飛驒市神岡町の標高850 ~ 1000m の盆地に広がる「天空の里」。茅葺(かやぶ)き民家や全面板造りの伝統的な倉庫「板倉」が残る。七つの集落があり、山之村はその総称。地名ではないため、「地図にない村」とも呼ばれる。
新感覚派の作家・中河与一(1897 ~1994)が1938 年に発表した小説『天の夕顔』の舞台となった。7 集落は、森茂(もりも)、下之本(しものもと)、伊西(いにし)、和佐府(わさふ)、打保(うつぼ)、瀬戸(せと)、岩井谷(いわいだに)。森茂に文学碑が立つ。
積雪2m を超す豪雪地。かつて、冬季約5 カ月間は雪の中に孤絶する土地だった。それだけに自給自足の暮らしが根付いている。「寒干し大根」は伝統の保存食。マイナス20℃を下回ることもある厳寒の気候が作る元祖フリーズドライ食品だ。地元主婦グループが約30 年前に商品化したところ好評で、特産品となった。民家の軒先に玉すだれのように並べられ、天日干しされる風景も美しい。2012 年度には一般財団法人食品産業センターの地域食品ブランド表示基準制度「本場の本物」に選定された。
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春は山菜、初夏の新緑、真夏は冷涼な気候を生かしたホウレンソウ栽培など、里は緑に包まれる。
山之村出身の上平隆憲さん(74)は勤め先を定年退職後、東京都府中市の自宅と山之村の実家との間を行き来しながら、山之村の郷土史研究を続けている。登山好きで北アルプスの山々が見える古里への愛着は人一倍だ。「山に囲まれながらも明るい広い平原で開放的な景観。そして温かい人のつながりがある」と古里の魅力を語る。
だが、少子高齢化が進み、住民は約70 戸170 人足らずに。上平さんの同級生で築約120 年の豪壮な農家建築を受け継ぐ松葉健治さん(75)は、「日本の田舎の原風景を守り受け継ぐのは、現在なかなか難儀。美しい田園風景を残すためにも、若い世代の交流人口を増やしたい」と、次代へ託す思いを話した。
(グリーンパワー2014年11月号から転載)