雪の栄村を襲った震度6強 / 「結いの心」で立ち上がれ!
3月11日、東北から関東まで未曾有の揺れと津波が襲い、各地の「にほんの里」や周辺に、大きな被害をもたらした。東日本大震災。震源に近い宮城県の女川町「江島」は一時連絡が途絶え心配されたが、奇跡的に住民80人無事の報道が、2日後にもたらされた。「山根六郷」のある久慈市では、大津波で大きな人的被害を受け、ライフラインが破壊された。
さらに12日の未明、今度は長野県の「栄村」を震度6強の直下型地震が襲った。余震ではないが、時間的には震災と一体の災害だった。村では、人的被害は少なかったが、暮らしへの影響は大きい。雪に埋もれる山村を襲った自然の猛威と、そこから早くも立ちあがろうとする、地元の人々の努力を、被災した側のNPO栄村ネットワーク・松尾真さんのレポートの抜粋で、お届けします。
●12日、未明の大地震
倒壊した青倉公民館(広瀬明彦さん提供)
「ドーン、ガタン、ガタン、ガタン、ガタン」という衝撃と音で瞬時に目を覚ましました。「宮城の地震の余震がきたのか」と思いながら、揺れがひとまず収まって、電気をつけると、ふすまは外れて、倒れている、本棚も倒れ、足の踏み場もない。部屋の外に出ると、壁などが落ちている。国道117号には段差、亀裂が生じていた。秋山地区を除く全村に避難指示が出され、家を離れて避難所に集合。青倉集落の公民館は全壊。「もう、あの家には住めない」という人が多数。JR飯山線の線路が宙づりになっている。県道のスノーセットが崩壊。山が大きく崩れ、中条川を埋めている。
●13日、激励
長野県の専門家による各家の診断が行われた。「赤」(危険)、「黄」(要注意)、「緑」(調査済)のいずれかの紙
中条川上流では山体が崩落
が貼られていきます。「赤」や「黄」と判定された方たちの気持ちは重いものです。こんな時、知り合いからの激励の一言が大変心強い。各集落への入り口には消防団員らが警戒についています。これは危険防止のために勝手な立ち入りがないようにするためと、「火事場泥棒」などを防止するためです。
●14日、一時帰宅
震災後初めての一時帰宅。消防団員の誘導で、滞在時間は30分間です。みなさん、貴重品と着替えなどを取り出し、避難所に持ち帰られました。青倉集落の「あんぼの家」には午後、入りました。外観はさほどの被害がないように見えますが、危険度診断は「赤」。中に入ってみて、驚きました。這(は)うようにして辛うじてモノを探すことができる状態。覆いかぶさっているものは、外から見ていた人が「2階が落ちているんだ」。
●15日、根羽村から炊き出し
県内各地から炊き出し支援が入っています。夕食時には南信州の根羽村から片道4時間をかけて、蕎麦の炊き出しに来て下さいました。温かい蕎麦に、長蛇の列ができました。中条川上流の山体崩落現場に林野庁が調査に入り、「これはひどい」と言っていたとのことです。山の中腹を走る、野々海池から森集落の田につながる水路が、山ごとなくなってしまいました。
●集落の絆を守ることが大切
栄村には大きな財産が生きています。集落の絆= 結(ゆ)いの心です。村に来られた中越防災安全安心機構の方も、「避難所のみなさんが落ち着いておられる。集落の力を感じる」と言っておられました。これから仮設住宅の建設も課題になりますが、集落の絆(きずな)を守り、強める方向で考える必要があります。いま、誰もの胸を去来しているのは、「どうやって暮らしを再建するか」「この歳になって、家を失い、どうしてよいか、まったく見当もつかない」という不安の思いです。昨夜、知人のAさん、Kさんと話しました。その時、Kさんが言いました。「こういう時に笑って話していると、『お前、馬鹿か』って言われるけれど、笑顔が大事なんだぜ」。まったくそのとおりです。
●県は住宅再建に最大限の支援を
数日のうちに、避難所からの全面帰宅が許可されることになるでしょう。帰宅が許されても〈住める家〉がない、あるいは、〈住める状態にする〉ために相当なレベルの修理が必要です。住宅再建への公的支援の問題が浮かび上がってきます。県内で深刻な被害を受けたのは栄村のみですから、県が全力を上げてくれたら、かなりの支援が可能ではないかと思います。
●農業の再建の具体的課題
なんといっても、農業を続けることができるかどうかが、村の再建を決めます。肉牛飼育農家は、牛舎が崩壊しました。生き埋めになっていた牛の救出、出荷できるまでに育っている牛の出荷などの緊急措置がとられました。キノコ栽培農家は、まだまったく手がついていません。最大の問題は田んぼ|米づくりです。いま雪の下にあって、見ることができませんが、多くの田んぼ、特に棚田は、亀裂が入ったり、畔(あぜ)、法面(のりめん)(土手)が崩れていることが予想されます。水路はより深刻で、各所で崩壊している可能性があり、今年、米作りができるかどうか、まったくわからないのです。4月下旬の種蒔きにむけては、3月下旬には種(籾)の浸水などを始めなければなりません。Aさん、Kさんは、「どんなことがあっても、米作りをやる!」と決意をされています。どういう準備を進めればよいか、これからの課題です。
●「結い」はボランティアの大先輩
18日、栄村復興支援機構「結い」が発足。「ボランティア・センター」という名称を使わず、支援に駆けつけて下さる人たちのことも、「結いのしょ」と呼ぶことにします(「しょ」というのは「人」という意味です)。栄村の集落に脈々と流れる“結いの心”。復興は、この集落の力なくしてはあり得ません。集落の絆を守り、どんな小さな集落をも震災から復興させるということがあってこそ、可能となるのです。ボランティア精神の柱である連帯や友愛の大先輩が、〈むらの結い〉なのです。
●ボランティア登録・義捐金について
ネットで「栄村ネットワーク(被災情報ブログ)」(http://sakaemura-net.jugem.jp/)を検索してご確認ください。
(グリーンパワー2011年5月号から転載)