固有種を育む 亜熱帯の森と里
沖縄本島では国頭村(くにがみそん)、大宜味村(おおぎみそん)、東村(ひがしそん)の北部地域を山原(やんばる)と呼ぶ。この地域の森林が「やんばるの森」だ。森を代表する木はスダジイ。地元でイタジイと言う。明るい林縁には木性シダのヒカゲヘゴが生え、林床にはたくさんのシダ類やクワズイモ。いかにも亜熱帯という感じの照葉樹林だ。
森にはノグチゲラをはじめ多くの固有種が暮らす。その名を一躍有名にしたのは、1981 年に発見されたヤンバルクイナだろう。マングース駆除や交通事故対策などの保護活動が続けられている。国頭村比地(ひじ)地区にある環境省「やんばる野生生物保護センター」は、森の自然の情報発信も担う。
やんばるの森は、広大な米軍訓練場があることでも有名だ。国頭村安波(あは)地区の一部が1998 年に返還され、「やんばる学びの森」ができた。「これも固有種。ヤンバルクイナの好物なんですよ」。森で見つけたヤンバルマイマイの殻に目を見張る。生き物の進化に果たした森の重要さを教わった。
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でも、やんばるの森は手付かずの原始林ではない。用材の供給地として伐採され、薪炭や竹材が生産された。国頭村の一番北の奥(おく)地区を歩くと、そんな里山としての森が垣間見える。民具資料館にあった戦後の写真には、山腹が階段状に開墾され、疎林が広がる集落の裏山が写っていた。
その裏山も今は照葉樹林が再生し、ヤンバルクイナが棲(す)んでいる。人々はそこに「奥の細道」という自然観察路をつくり、山裾に宿泊棟を建てた。森の環境を生かして、集落の活路を見いだす取り組みだ。3 月に早くも茶摘みが始まる茶の栽培にも力を入れる。茶畑に敷くススキの草地が維持されているのも、見逃せない里山風景だ。
スダジイの花が咲き、茶の緑が萌える春。夜になると、繁殖期を迎えたヤンバルクイナの声が森にこだまする。
(グリーンパワー2014年4月号から転載)