台場クヌギが並ぶ 菊炭の里
落葉広葉樹のクヌギを原料とした、茶道用の「菊炭」の産地として知られる。炭焼き窯が現役で稼働しているため、山の斜面には生育段階のずれたクヌギ林がパッチワーク状に見られる。兵庫県立大学名誉教授の服部保さん(65)は「こうしたクヌギ林の輪伐(りんばつ)景観が残っている黒川は、天然記念物に値する」と言う。
ここを特徴付けているのは台場クヌギの存在だ。地上1~2mの高さで幹を伐(き)り、そこから新たに萌芽(ほうが)してくる枝を育てては、伐採することを繰り返す。このため土台となる幹がずんぐりとした形になり、このような名前で呼ばれる。萌芽の生育が早いことやシカの食害を受けにくいことなどから、広まったらしい。
もう一つの代表的樹種は桜の仲間のエドヒガンで、黒川には大木の群生地がいくつかある。エドヒガンの花が咲き、クヌギの新緑が映える春の森には、多くのハイカーが訪れる。
森とともに草原や低木林がある多彩な環境には、野生の草花が美しさを競い、多くの昆虫が誘われてくる。明治期の木造校舎が残る黒川公民館(旧黒川小学校)は子どもたちの自然体験など、地域活動の拠点として維持されている。
▲ ▲ ▲
もっとも炭の生産が減るにつれ、荒廃したクヌギ林も目立つようになっている。このため林を手入れし、里山の景観を守る多くの作業を、今では森林ボランティア団体が担う。その一つである「菊炭友の会」は、エドヒガンの多い「黒川・桜の森」を拠点としつつ、地区内の放置林に出向いてはクヌギを伐採し、元気な林へ戻す活動に汗を流している。同会代表の大門宏さん(72)は「伐りっぱなしではクヌギそのものが駄目になる。伐った後も周りの草などを刈って、3年間は手入れを続ける必要がある」と話す。こうした人々の手が加わることで、里山の循環が今も保たれている。
(グリーンパワー2014年2月号から転載)