2018年10月31日
暮らしの知恵を 次世代に
京都府北部の丹後半島。宮津湾へ注ぐ世屋川に沿って山あいへ向かうと、やがて棚田に囲まれ、入母屋づくりの古民家が並ぶ上世屋(かみせや)の里が現れる。
すり鉢状の傾斜地に造られた棚田は、地元の人たちに加えて、ここの米を使うお酢屋さん、そして定期的に通ってくるボランティアらも加わって、作付けが続いている。周囲には冷たい水を田に入れる前に循環させて温める「コナワ」が設けられており、木で組んだ「イナキ」にイネの他、ソバや豆類など季節の収穫物を干す光景も見られる。
今、この里に暮らす12 戸は古くからの住民と移住者がほぼ半々だ。大学生の時から丹後に関わり、卒業後に移住した小山有美恵さん(31)は、米作りの他、子どもたちが地域の自然を体験するプログラムも提供している。「地元の人たちに見守ってもらいながら、一緒にやらせてもらう活動が多い」と話す。
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今では古民家の屋根の多くがトタンで覆われているが、特徴と呼べるのは笹葺(ささぶ)き屋根。ここが教師しての初任地だったという安田潤(めぐむ)さん(66)は「厚いわらの上へ、身近で豊富なチマキザサを葺いてある。ササを使うのは防水と防腐の効果を期待している」と説明する。
植物を使った民俗文化財の「藤織り」も残されている。フジの繊維から糸を作り、それで織った布が仕事着や袋に使われてきた。地元の女性たちから技術を学ぶ講習会が始まったのは30 年前。丹後藤織り保存会会長の井之本泰(とおる)さん(63)は「昔ながらの暮らしの知恵を、次世代につないでいきたい」と話す。
里の近くにはコナラやイヌシデ、ブナなどが育つ。ブナは集落が大火に見舞われた際の建築材にしたり、非常時に炭にして現金を得たりするため、大切にされてきた。そんな林を歩いて岳山(嶽山、637 m)に登ると、上世屋の里を見下ろせるばかりか、丹後半島の山々から宮津湾までの広い眺望が楽しめる。
(グリーンパワー2015年4月号から転載)